「人手不足倒産」が過去最多:中小企業が直面する“採用と定着”の現実

1. はじめに:2025年4月、人手不足による倒産が過去最多に

今年4月、全国で「人手不足」が原因の倒産が36件に上り、前年同月比44%増という深刻な状況が報じられました。
東京商工リサーチの発表によると、これは2013年以降の4月としては過去最多の件数。
「人がいない」──この現実が、企業の存続を脅かす時代が本格的に始まっています。

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◆『2025年4月「人手不足」倒産 最多の36件 人材の流動化が進み、「求人難」「従業員退職」が急増』
(東京商工リサーチ 2025/05/07)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201361_1527.html
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2. 最新データから見る「人手不足」倒産の実態

今回の調査では、「従業員退職」が原因で倒産に至ったケースが14件(前年の2倍)。
「求人難」による倒産も10件と、大きな伸びを見せています。
単に「人が採れない」だけでなく、「人が辞める」リスクも同時に高まっているのが現状です。

3. なぜ中小零細企業ばかりが追い詰められるのか

倒産した企業のうち、資本金1,000万円未満の小規模企業が全体の6割超。
つまり、影響を最も受けているのは中小・零細企業です。
資金力が乏しい企業ほど、採用・定着の対応が後手に回り、崩れていく構図が浮き彫りになっています。

4. “求人難”と“従業員退職”の二重苦

今はただでさえ求職者が減っている中で、既存の社員がどんどん辞めていく。
この「ダブルパンチ」に多くの企業が苦しんでいます。
私のクライアント企業でも、「3ヶ月連続で求人出しても1件も応募がない」という声が少なくありません。

5. 賃上げ要求と人材流動化のダブルパンチ

昨今の物価高を背景に、労働者の賃上げ要求が高まっています。
ですが、中小企業にとっては原材料費や借入金利の上昇で、賃上げに踏み切る余裕がないのが実情です。
結果的に、大手へ人が流れ、ますます人手不足に陥るという悪循環に。

6. 資金繰りの厳しさが採用力を奪う

今回倒産した企業の約9割が「破産」手続きに至っています。
つまり、もはや資金繰りができず、打つ手がなかったという状況です。
採用活動には先行投資が必要ですが、それすらできない状況が広がっています。

7. 従業員不足=受注減=業績悪化という悪循環

人が足りずに仕事を受けられず、売上が減少。
業績が下がると賃金も上げられず、さらに人が離れる…。
このループから抜け出すには、「定着」と「魅力ある職場づくり」が不可欠です。

8. 今こそ求められる“採用定着”戦略

「給与は上げられないけど、働きやすさでは負けたくない」。
そんな企業こそ、今すぐ“定着”に力を入れるべきです。
具体的には、現場ヒアリング・人事制度の見直し・キャリア面談の導入など、費用を抑えた取り組みでも効果は十分にあります。

9. 社会保険労務士・採用定着士の視点から

私はこれまで、数十社の中小企業で「離職防止」や「職場改善」の支援をしてきました。
“人が辞める理由”には、実は小さな誤解や不満が潜んでいることが多いものです。
現場と経営をつなぐ仕組みを整えることで、採用以上に効果を発揮することも少なくありません。

10. おわりに:まずは“人が辞めない会社”をつくることから

人手不足が続く今、求人の前にやるべきは「辞めさせない仕組みづくり」です。
社員が安心して長く働ける職場を整えることが、最も確実な“採用対策”になります。
まずは自社の「辞める理由」を可視化し、今日からできる改善策に取り組んでみてはいかがでしょうか。